出逢い：9
私の家を通り過ぎた車はどんどん先に進んで行き、中央に高速道路を挟んだとても大きな国道に出た。
国道は行きも帰りも2車線で、中央の高速道路も2車線ずつなので、実質8車線分の幅がある。
この時間帯は荷物を運ぶトラックも多く見かけるから車のライトで思ったより煌びやかだ。
国道沿いのコンビニに車を停めると、君嶋さんは
「何飲む？」
と聞いてきた。
「じゃ、緑茶を……。」
と答えると、君嶋さんは頷いてコンビニに入っていく。
……一体これは、何が起きているんだろう？
これは…夜中のドライブ？？？
なんで私と？
「はい、お茶！！！」
バタンとドアが閉まって車に乗り込んだ君嶋さんが、私にペットボトルを渡してくれた。
温かいのが良いって言えば良かった…。
「そういえばさ、渡瀬ちゃんさっき専門学校行くって言ってたね。何の専門学校なの？」
「実は、料理の専門学校なんです。」
「あー！！だからうち（clan）をバイト先に選んだのか！」
「そうなんです。以前から前を通る度に素敵なお店だな～と思っていたので、バイト出来る様になって嬉しいです。」
「いいねー。なんか俺が褒められてるみたいで嬉しいよ。」
「それで、料理人になるの？」
「……それが、料理人になりたいと思って専門学校を選んだんですけど、実際にclanで働いてみたら、料理も好きだけどお店を運営するのも面白そうだなって思い始めちゃって。」
「凄いな渡瀬ちゃん！！経営者になるの！？俺には出来ないなー。」
「いえ、経営なんてとんでもないです！ちょっと、オーナーの仕事内容に興味があるなと思っただけで…。」
実際私はclanに入ってから大きく自分の将来への興味が変わっていくのを感じていた。
もちろんそんなに簡単な事では無い事はなんとなく理解出来ているんだけど、お店の運営、メニューをシェフと考案、人材の採用、集客などなどなどなど山ほどありそうな仕事内容に、ちょっとずつ興味が湧いていた。
「やりなよ。」
唐突に君嶋さんが言った。
「え？」
聞き返す。
「いや、今言ってた経営の話し。やりたいならやった方が良いよ。」
「後悔するぐらいなら、まずやってみて、それから考えるぐらいの方が良いよ、若いんだから！」
「なんか、凄く背中押してくれますけど、①なんで？」
「(笑)俺はそんな事できねーから。自分じゃ出来ないけどさ、人がやりたいって言ってる事は応援したいよ。」
「君嶋さんは、何か目標とか夢とかあるんですか？」
「ないないないない、あったら何年もclanでバイトなんかしてないし。」
「あ、君嶋さんバイトなんですね…。」
「バイトだよー。バイト。本来そろそろ就職しないといけない年齢だけど、やりたい事とか無いんだよなーー。」
そうか、君嶋さんってバイトだったのか…。
あまりにもテキパキ動くし、何でも知ってるから社員として雇われているんだと思ってた…。
「木田さんは社員だけどね。」
ドキ
木田さんの話題が出るとドキっとしてしまう。
（どうしよう、聞いてみようかな。迷うな…。）
私は恐る恐る、②君嶋さんに探りを入れてみた。
「そ、そうなんですか～！木田さん社員でバリバリ働いてて、店長みたいな仕事もずっとやってるし、彼氏も鼻高々ですね～～！」
（ちょっと、不自然だったかな…。）
①なんで？
└ずっと敬語で話していた相手に突然タメ口で話し掛けるのは相手から嫌がられてしまうと思いますが、敬語の中にちょっとしたタメ口を入れ込むのは、相手と距離を縮めるのに大変効果的です。
男女問わず、これをやられると『あれ？なんか、打ち解けてきてる？』と思わせる効果があるため、相手も段々心を開きやすくなるのです。
ちょっとタメ口を混ぜ込んだ時に相手の眉間にしわが寄ったら、まだ早かったと考えて暫くはまた敬語を続けましょう。
②君嶋さんに探りを入れてみた
└片思いの時やお相手に何か不審な点があった時に、探りを入れてみたくなる気持ちはよく分かります。
しかし探りを入れる、という事自体が非常にリスキーな行為です。
そして、探りを入れる際に特に失敗しがちなのは下記2点です。
⑴友人知人に探りを入れてもらう
⑵遠まわしに別の質問をする
これはお相手と伝え方、状況にもよりますが、しっかり戦略・戦術を練らずに行うと、失敗しやすいです。
探りを入れる事に失敗するというより、お相手から良くない印象を持たれる可能性が上がりますので、探りを入れるという行為は本当に気を付けましょう。探りの入れ方の正解をお伝えしたいところですが、相手によって方法が千差万別のため、1つだけポイントを。
変な探り方をするぐらいなら、ストレートに相手に質問！
これに限ります。
内容と相手によってはこれでもNGな場合もありますが、確率論的には探るぐらいなら直接聞いた方が結果は良いでしょう。
※つまり今回の場合、主人公はダメな探り方をしています。
