不協和音:8
数日後、貴くんは本当に彼女と別れたらしく、その噂が瞬く間に私の耳に流れ込んできた。
由美……。
由美のせいにしてはいけないが、いや、由美のせいか。
これで断るなんて、本当に極悪人でしょうよ、私…。
“貴くん、彼女と別れてしまった”事件
が起きてから、私は申し訳ない話し、戦々恐々としていた。
だけど、いつ来るとも分からない連絡にびくびくしていても仕方がない…。
そう思う様にして、その日も私は“由利”に飲みに行った。
そしてその帰り、良く飽きないな、と正子から何度もつっこみを入れられている、深夜のドライブデート。
確かに、私も毎回概ね同じコースを走るのに、良く飽きないなぁ、と思う。
私だけじゃなくて成ちゃんも…。
成ちゃんは、お気に入りの最近ハマっているゲームの話しを熱く語っていて、私はそれに質問を投げては楽しく語る成ちゃんと大笑いしていた。
その後も、以前貸したCDの話しや、clanに新しいバイトの人が入ってきたことなどを話していた。
いつもと変わらない、そんな2人の仲の良いやり取りだった。
1つだけ違ったのは、一緒にいる時に鳴った事が一度もない成ちゃんのケータイが深夜なのに何回か鳴ったという事。
運転席と助手席の間に置いてある成ちゃんのケータイの背面ウィンドウに、“新着メール”という表記がある。
(成ちゃんだって、メールぐらいやるよな。)
そう思って、気にしないようにした。
気にしない様にしていたら、今度は私のケータイが鳴った。
ドキっとして、恐る恐る見ると『貴くん』と表示されていた。
メールだ。
二つ折りケータイを開いて、受信ボックスを確認する。
[来週の平日どっか空いてる?話しがあるんだけど。]
うーーーーー。
そうだ、会うのかーーー。そうだよね、会うよねー。
①彼女と別れさせたようなもんだし、もう付き合う事になるって思うよね…。
困った私は、一旦返信を保留した。
横を見ると成ちゃんが流れてる音楽に合わせて鼻歌を歌っている。
(そうだ、貴くんに会う前に…。)
「成ちゃん、今日も素敵だね♡ いい加減私と付き合おうか?」
お決まりの告白をしてみる私。
「はい、無理ー!無理むりー♪」
音楽にノリながら告白を断る成ちゃん。
クソー…。そりゃそうだよなぁ。
来週、貴くんに会う前の日も由利に来よう。
それで、成ちゃんの事をどれだけ好きかを心に刻んでから貴くんに会いに行こう。
私は成ちゃんに会う事で気合を入れようと考えていた。
①彼女と別れさせたようなもんだし、もう付き合う事になるって思うよね…。
└何かを得るための条件を提示された場合、言わずもがな、その条件をクリアすればそれを得る事が出来ると思います。いわゆる暗黙の了解です。
この場合、いくら由美が勝手に送ったメールだったとしても、貴の立場になって考えると、“別れたら付き合える”と飛躍して受け取る可能性がある事は考えてから言わないとなりません。
例えこちら(由美)が、“最低限告白する時のマナーでしょ”という意味でメールをしたのだとしても…。