不協和音:7
「どうしようか…。」
私のケータイのメール画面を広げてファミレスのテーブルの上に置き、それを覗きながら正子が眉間にシワを寄せている。
珍しく由美が静かだ。
貴くんからメールが来てすぐ、私は正子と由美にSOSメールを送信した。
そして翌日の昼に緊急集合したのだ。
「あんたのその“成ちゃん大好き”はもう分かったよ。だけど、貴どうすんのよ?貴は絶対麻衣とうまくいくって思っちゃってるよ。」
「そうだよね…その、その自覚はあります…。」
ションボリする私。
(本当に静かだな、由美)
「ちょっと、私トイレ行ってくるわ。」
と、正子が眉間にシワを寄せたまま席を立つ。
正子がトイレに入って見えなくなった時だった。
由美が突然私のケータイを手に取って、操作を始めた。
「ちょちょちょちょちょちょ由美、どうした?なに??」
慌てて私がケータイを取り返そうとする。
「貴に返信する。」
由美がむすっとしたまま取られないようにケータイを自分側に引っ込める。
「え?返信?なんで??」
何のことかサッパリ分からないまま由美の顔を覗き込む私。
「あいつ(貴)さ…、隠してるけど彼女いるんだよ。」
正子と同じぐらい眉間にシワを寄せる由美。
え?貴くん、彼女いるの?
①そんな話しもそんな素振りも全く見えなかったけど…。
「どうやらほぼ終わってるみたいだし、貴はもう一回向き合うつもりもないみたいだけど、いるのはいるの。彼女の方は別れたくないみたい。こないだ飲んでる時に直人(貴の親友)が言ってたから間違いないよ。」
由美が真剣な顔で私に打ち明ける。
「え、でも、だからって、なんで由美が何を返信するの?」
と、質問をしいている間も、由美の指は高速でケータイのボタンをカチカチ押し続けている。
「そうしーん!!!!!!」
と、馬鹿でかい声で由美が叫ぶのとほぼ同時に正子がトイレから戻ってくるのが見えた。
「なに、どうした??そうしん?」
正子も何がなんだか分かっていない。
「ちょっと貸して!」
私が由美の持っているケータイを奪って内容を確認する。
[こんにちは、麻衣じゃなくて由美です。麻衣が困ってるから代わりにメールしてます。 貴、あんた今彼女いるよね? 彼女いる状態で麻衣に告白ってどういう事? ちゃんと別れてから言ってきて!]
ちょちょちょちょちょちょ
私の中のキムタクが「待てよ」と心の中で言っている。
「由美ィ~~~!!!!」
私は代わりに、困った声で由美の名前を呼んだ。
正子は私の手からケータイを取って内容を読み、ナルホドという顔をした。
結局、もうメールの送信も取り消せないし、その場は一旦何も出来る事が無い、という結論になって、私達は買い物に出かけた。
ショッピングをしながら、私は貴くんに対してかなり複雑な気持ちになっていた。
確かに貴くんに彼女がいたのは聞いてないし、成ちゃんと再会しなければきっと貴くんと付き合っていた。けど、ビックリするほどショックを受けていない自分にも気が付いた。
となると、貴くんに『彼女と別れろ』と言っておいて、私はこの後本当に貴くんが彼女と別れたら、どうするつもりなんだ…?
①そんな話しもそんな素振りも全く見えなかったけど…。
└今にも別れそうな恋人がいる場合、その恋人との関係を清算せずに他の人に告白する人は、実は一定数います。
理由の多くは下記です。
・恋人に関心がないのでフェードアウトしようとしている
・告白がうまくいったら別れようとしている
・恋人を振られた時の保険にしている
・別れたいけど相手が了承してくれなくて困っている
・別れる予定だったけど気持ちが高まって先に告白してしまった
いずれにしてもあまり良い状態とは言えません。
少し人間関係がだらしないイメージになってしまうので、自分はその様な事をしないように心がけましょう。
万が一、今回の麻衣の様に告白した相手がその事実を知ってしまったら、高確率で幻滅されます。