明日、心が晴れますように

明日、心が晴れますように

心理や恋愛に関する事を書いていきます、お役に立てたら嬉しいです。

不協和音:10

f:id:megumi_sato:20200702081326j:plain

f:id:megumi_sato:20200912062243j:plain

 

貴くんと付き合い始めてしまった。
付き合い始めて、1週間が経った。

私は、貴くんの誘いや正子の電話、由美からのメールに、ただ流されて過ごしていた。
誘われたら行くし、電話が来れば出るし、メールでは聞かれた事には返信する。

これが正解だったのかは分からない。
成ちゃんだって、バイトの子に誘われて、ただ映画を観に行っただけかもしれないのに、まるで当てつけみたいに私は貴くんと付き合い始めて、一体自分が何をしようとしているのか…。

だけど、貴くんと付き合って、貴くんともっと仲良くなれたら、成ちゃんの事を忘れる未来もあるかもしれない。

ふと、ケータイを見ながら、通う様になってから1週間以上「由利」に行ってないのは初めてだと気が付いた。

(行って、ママにも成ちゃんにも、①彼氏が出来たと報告しよう。報告したら吹っ切れる何かがあるかもしれない。

気まぐれに、突然「由利」に向かう事にした。

 

中に入ると常連の瀬能さんだけがカウンターで飲んでいて、他はあまり見かけない人達だった。ママと成ちゃんに「いらっしゃい。」と言われて席に着く。
どうやら、私が由利に行った時間が遅かったようで、井原さん達はもうとっくに帰ってしまっていた様だ。

「今日、ママに報告があるんです。」
私は意を決してママに話し掛ける。
成ちゃんは、横で皿を洗っていた。
店内には音楽が流れていて、お客さんの話し声も聞こえるし、ママが注文の準備をしている音も聞こえるのに、私には成ちゃんがお皿を洗っているカチャカチャという音だけが大きく聞こえていた。

「ママ、私彼氏が出来たんだけど。」

「えー!!!!!うそーーー!!おめでとう!!!!」
明るくて優しいママは、嬉しそうに笑いながら、カウンター前まで出てきてくれて、ハグをしてくれた。
成ちゃんは何も言わずにそのまま皿を洗ってた。

瀬能さんも、「ちょっと久しぶりに来たなと思ったら、良い話しだな。」と笑ってくれた。

その後少しして、皿を洗い終わった成ちゃんが私のグラスにお酒が残っていないのを見て、何も言わずに私がいつも注文する梅サワーを持ってきてくれた。「これで良い?」と。

言い終わって、スッキリしたのかしてないのか、吹っ切れているのか、全く分からない。

結局その日は何度も瀬能さんに「めでたいから歌え!」とカラオケを勧められ、何度も歌を歌う事になりつつ、楽しい時間を過ごした。

そして、成ちゃんのバイトが終わる時間になると、いつもの様にママ達に挨拶をして、成ちゃんと私は店を出た。
いつもの様に自転車を車に乗せ、いつもの様に私は助手席に乗る。
いつもの様に成ちゃんが運転席に座って、車を出すぞ、という瞬間。

「やばい、俺やらなくちゃいけない事、し忘れた。ちょっとだけ待ってて!すぐ戻る。」
そう言って、成ちゃんが勢いよく車を降りて、走って由利に戻ってしまった。

手持ち無沙汰にしていると、成ちゃんのケータイが目に入った。

途中だったのか、ケータイを開いたまま、しかもメール送信画面を放置している様に見える。

(なんだろう…。見たい…。見たくなってしまう…。)

気になったけど、流石にそれは人としてやってはいけない、と思い、ぐっと我満した。

でも気になる。
成ちゃんはやる事があるって言ってたから、すぐすぐ戻ってくるわけじゃなさそう…。

ついに、欲に勝てず、ケータイを触らずに画面だけ覗き込む事にした。

すると、画面に[お疲れ様]という言葉があり、差出人は[智花]となっていた。

私の心臓が、一気に跳ね上がった。
(智花って誰…?)(先週言ってた、バイトの子…?)

気になる気持ちを抑える事が出来ず、そのままケータイを手に取ってしまった。そして、メールの受信履歴と送信履歴を確認して、私は息が出来なくなった。

[渡瀬来た。でも、彼氏が出来たんだって。]

[良かったね!解放されて。]

[良かった!]

[お疲れ様]

私は、今までで一番手の震えが止まらない状態になって、そのままケータイを元にあった位置に戻した。
[良かったね!解放されて。]
という文章が頭で100回ぐらいリフレインしている。

成ちゃんは、本気で私を面倒だと思ってたんだ。
それを、良い感じの女の子に話してたって事だ…。
さっき、意を決して話した彼氏が出来たという告白を、ほっとした気持ちで聞いてたんだ。

人生で、一度も味わった事が無い気持ちになった。

最初に振られた時の、何倍も嫌な気分で、だけど、車に乗っている以上、泣く事も許されない。

傷つく、というのはこういう事を言うんだ、と。

 

その後、成ちゃんが車に戻ってきた。

「ふ~~~。お待たせ~!よし、行くか~~。」
いつもの成ちゃんだった。

嘘つき

楽しく喋ってるのも、全部嘘なんだ

②本当は私を面倒で、一緒にいたくないと、友達としてさえ思ってくれてなかったんだ、と

成ちゃんがいつものドライブコースに車を走らせようとしたのを感じて、
「ごめん、今日は、は…早く、帰らないといけないから。」
と、ドライブを断った。

帰宅後、またしても私は暫く寝れなかった。
ずっと頭の中を、2人のメールのやり取りがぐるぐるしていた。

 

そして私は「由利」に行かなくなり、1ヶ月が経った。
そのぐらいの時期に、成ちゃんがclanのバイトの子と付き合い始めたという話しを耳にした。

もう、メールを見たショックがあったので覚悟はできていたけど、『やっぱりな』という気持ちで頭の中が支配された。

私は少しやけくそになって、成ちゃんの彼女を見てみたいと思ってしまった。
そう、今私は彼氏がいるし、なんなら成ちゃんより先に恋人が出来たのは私だ。わざわざこんなに落ち込む必要なんてない。堂々とclanで久しぶりにごはんを食べようじゃないか。

何も知らない「由利」の常連、原さんを誘って久しぶりにclanのランチ。

注文をしながら店内を見渡しても、それっぽい人は見当たらない。
時間の当たりをつけたのを、間違えたかな?と思った。
そもそも、今日は曜日的に成ちゃんはいないはずなんだけど…。

食事を終えて、原さんと「満足だねー」という話しをしていた時、デザートを運んできてくれたスタッフさんを見上げると、見た事が無い人だった。
ネームプレートに『藤原智花』と書かれていて、私は一気に笑顔が引っ込んだ。

ボーイッシュなショートヘアに大きい目と、アヒル口がかわいらしい、でもしっかりした印象の人だった。
そして、その子の左手の薬指に、彼女の印象とは違う、少しゴツ目の指輪が光った。

[良かったね!解放されて。]

というメールを思い出し、私は3年近くに渡る自分の片想いをこの子が一瞬にして持ち去って行った上にあんな酷い文章を入れた、という事実に感情的になりそうになった。

それを抑えて抑えて、原さんにも気が付かれない様にしながら、最後は店を出た。

それ以来、私はclanにも由利にも行かなくなり、成ちゃんにも連絡せず、時々かかってくる成ちゃんからの電話にも、一切出なくなった。

そしてそのたまにかかってきていた電話も、全く鳴らなくなった。

 


解説

 

①彼氏が出来たと報告しよう。報告したら吹っ切れる何かがあるかもしれない
└自分が相手を好きだという認識があるのに、その相手に他の異性の話しをする事は、十中八九“試し行動”です。

報告したら吹っ切れる何かがあるかもしれない、と麻衣は言っていますが、その“何か”で潜在的に期待している事は、その事実に成ちゃんが嫉妬し、自分に気持ちを向けてくれるという結末です。

試し行動をして良い結果がついてくる事は、恋人同士の関係性で相手が試し行動に寛容である場合などでない限り、概ね失敗します。
大変リスクが高い行為なので、この様な事が頭に浮かんだ際は打ち消す事が出来る事が理想です。

 

②本当は私を面倒で、一緒にいたくないと、友達としてさえ思ってくれてなかったんだ
└この様に(麻衣から見ると)酷い事をされた場合、上記の様に考えてしまうのはおかしな事ではありません。

しかし、君嶋は本当に麻衣を面倒で嫌な存在だと思っていたでしょうか?

答えは、『No』です。

本当に嫌で面倒な存在だった場合は、深夜に車で送って行く事も、定期的に連絡をしてくる事も、ましてや深夜にドライブに誘う事もありえません。

特に男性の価値観の中には“いかに多くの女性にモテているか”が一定のステータスを示す部分がある人が多いのが事実です。(もちろん全員ではありません。)
なので、君嶋は麻衣に好かれている事をまんざらでもなかったし、かわいい妹の様な存在を側に置いておきたかったと思います。
その一方で、智花という女性が現れ、君嶋は智花に好意を持ってしまいます。すると、“俺はモテている”という事を間接的に自慢し、相手の興味をひこうと思ったと考えられます。“麻衣にしつこく迫られている”事を智花に伝える事で、自分の価値を高めようと思ったという事です。

この様な事をする男性は実は多いのですが(モテ自慢の他にも年収自慢や権力自慢など)、自分の言動を言語化出来る人は多く無いので、『自慢する事で自分の価値を高め、相手に好意を持ってもらう』という事を明確に考えながらやる人はあまりいないでしょう。
そこが、難しいところです。