不協和音:3
心臓がバクバクして、今にも口から飛び出しそうだった。
お酒を飲んで少し酔っていた事と、手に持ったグラスが冷たかった事と、カラオケボックスの大きな音で頭がグラグラして、自分が今ここにいるのが現実なのか夢なのかも分からなくなってきた。
カラオケボックスの外に出て、入り口の外で深呼吸する。
持ったケータイが、手の中で震えていて、ボタンを押す時に指が滑った。
着信履歴のボタンを押すと、「成ちゃん」という文字が背景に続けて2回光っていた。
好きな人に電話をかける時の呼び出し音は、なんだか合格不合格を発表する前のドラムロールの様に聞こえる。
出れば合格、出なければ不合格。
どうしてこんなに、長く感じるのだろう。
「あ、もしもし。」
3ヶ月聞いてないだけで、もう懐かしい成ちゃんの声。
「もしもし…。電話、した?」
「したした。今日、何してるの?」
「え?何してるの…?って、今みんなでカラオケ来てる。」
「若いねー。じゃ、今日は空いてないかー。」
「どうかしたの?」
「いや、久しぶりにラーメン行かねーかな、と思って。」
「何時に?」
「俺今母ちゃんのお願いで買い物来てるから、2時間後かな。」
「わかった。」
すんなりと約束をして、電話を切ってしまった。
何してるんだ?わたし。
あんなに成ちゃんと会うのを阻止してきたのに、①本人が誘って来たら速攻受け入れ態勢か!
ダメでしょこれ!
てか、何のために連絡してきたんだよ、成ちゃん。
意味分からんわ。
何のために私はclanを辞めたんだ???
まずい、正子にも由美にも言えない…。
多分今日のこのカラオケ、多分もう少しで終わると思うけど、みんなその後どうするんだろう…。
延長したり他の店に行くってなると恐らく終電は終わるから、オールになるし…。その場合、抜けるのは目立つなぁ…。
困ったな、と思いながらトボトボとカラオケボックスの中に入り、自分達の部屋を目指す。
すると、部屋の近くのトイレの前に貴くんがいて、私を見つけるなり
「いたじゃん!!」と言って近づいてきた。
「なに?誰?わたし??」と反応すると、
「そうでしょうに!」と笑いながらツッコミのポーズをした。
「部屋戻ってこないから、具合でも悪いのかと思った。」
貴くんが心配してくれている。
「ありがとう。そんなに好きじゃないレモンサワー飲んだからね。」
「あんた、人のもの勝手に飲んで好きじゃない、は無いわ!(笑)」
やっぱりこの人とのテンポ良いやり取りは楽しい。
「②で、俺と麻衣はこの後2人でどこに行く?」
私の目が、鳩が豆鉄砲を食ったようになった。
え?
貴くん、私とこの店抜ける気だ…。
まずい、どうしよう………。
「ど・・・どこか行く、っていう話ししてた・・・っけ?」
とりあえずすっとぼけてみる。
「(笑)俺、麻衣と2人で飲みたいわ。」
直球。
「え、めっちゃ嬉しいんだけどそれ。だけど今日は帰らねばならないのです~。」
ここは素直に言ってみる。
「え??帰んの???なんで?」
貴くんは私が帰るなんてやっぱり思ってもみなかったみたい。
「ごめん、今親から電話あってさ…。ちょっと帰らないと…。」
これは後でバレそうな嘘だ、と自覚しながらの嘘。
「まじで、大丈夫なの?送ろうか?」
ああ、貴くんマジでいい奴。騙してごめん…。
「大丈夫だよ!ありがとう。」
私はこっそり部屋に戻り、大人数で盛り上がっているどさくさに紛れて、荷物を持って部屋から出た。
貴くんは結局駅まで送ってくれて、私はそこから電車で最寄り駅まで帰る。
その道中、久しぶりに成ちゃんに会える期待に、ずっとドキドキしていた。
①本人が誘って来たら速攻受け入れ態勢か!
└前回、女性(脳)が恋を忘れるには物理的距離を、と言いましたが、やはり本人との直接のコンタクト程強いものはありません。
皆さんも、相手を忘れようと思った時や、もう感情的にならない様にしようと思った時程、相手に直接関わってしまうと思った通りにコントロール出来ない経験があると思います。
なので、やはり電話がかかってきても出ない、折り返しはしないで最低限のマナーとしてメールやLINEで電話の理由を尋ねる、などにした方が感情は抑えられると思います。
時間を少し置いてからアクションする事も、お勧めです。
②で、俺と麻衣はこの後2人でどこに行く?
└相手が油断している時に、突然2人っきりになる誘いをするというのは、なかなかのテクニックです。
しかも本文に描写はないですが、貴くんはこの時初めて麻衣を呼び捨てにしています。
突然の誘いを突然の呼び捨てでする、貴くんはなかなかのやり手だと思います。
男性の皆さんも、女性を誘いたい時で自信がある時(ここ重要)は、予想外のタイミングで複数の予想外を利用してみてください。
大抵は相手をドキっとさせる事が出来ますよ。