痛み:1
翌日、私は初めてclanのバイトを休んだ。
体調不良だと伝え、電話に出てくれた林さんに謝罪し、電話を切った後は部屋の中でずっと泣いていた。
良いのか悪いのか、今日成ちゃんは休みの日なので私が休んだことを誰かに聞かない限り気が付かない。
あの後、私は成ちゃんに食い下がった。
「え?…でも、なんで毎回ドライブ行ったりとか…。」
放心しかけながらも疑問に思った事を質問した。
「あーーーーー、いや、渡瀬と話してるのは面白いから。」
成ちゃんが、ほんとうに悪気なく答える。
「面白いの?面白いなら、付き合ったら良いじゃん。」
①少し、説得してみる。
「いや、面白いから付き合うっていうのは違うだろ。」
冷たい口調で成ちゃんが答える。
「私と一緒にいると、楽しいんでしょう?」
ダメだ、成ちゃんがどういうつもりで話してるのかとか、頭が回らない。
「楽しいけど!でも、それとこれとは違うの!」
ちょっと、成ちゃんの口調が強くなった。
「だけど、付き合ったら好きになるかもしれないじゃん。」
もう、私に理性の様なものは残っていなくて、②自分でもぐるぐる同じ事を伝えているのが分かっていたけど、止められなかった。
「しつこいよおまえ、無理だって言ったら無理なの!」
成ちゃんが少し怒りながら言った。
1日中泣いていた私は、昼過ぎになっても何もする気になれなくて、親が心配するのをよそに、ご飯も食べずに部屋にこもっていた。
いつもだったら真っ先に電話する正子や由美にも、今回は連絡する気になれなくて、頭の中ではただずっと、成ちゃんのそっけなく冷たい態度がループを続けていた。
夕方が過ぎ、夜も近くなった時、私はふと起き上がり、家を出て突然ある店まで行って買いものをして帰宅した。
何を思ったのか、そのまま私は左耳に③人生初のピアスを開けたのだった。
ピアスを開けた事に何故か満足して、それでも元気が復活するとまではいかなかったが、夜には正子と由美に電話をして成ちゃんとの事を話すようにはなっていた。
①少し、説得してみる。
└誰かに何かを理解してもらいたい時、“説得”というのは本当の意味での解決には直結しない事が多いです。
特に、恋愛が絡む時は説得したい相手も自分自身も何らかの強い感情を持っている事が多いため、事実がどうであれ、正しい理解がどうであれ、説得は友好的な手段ではありません。
この様な場合は、一度“強い感情”が治まるのを待ち、その上で相手に理解を示しつつ話し合いをする様にしましょう。
※とはいえ、今回麻衣の行った内容は話し合いで何とかなる問題では無いんですけどね。
②自分でもぐるぐる同じ事を伝えているのが分かっていた
└同じ事を何度もしつこく伝えてくる人は、どういう心理なのでしょうか?
それはシンプルに、“自分の要望通りになっていないから”、です。
何度か言えば押しに負けて要望を聞いてくれる人も中にはいるかもしれませんが、相手に悪印象を与える可能性も高いので、思った通りにならなくても何度も同じことを伝えるのは避けましょう。
③人生初のピアスを開けた
└ピアスを開けるタイミングも様々あると思いますが、その1つが失恋してしまった時です。
これは、失恋の痛みをピアスを開ける痛みで誤魔化す事や、ピアスを開けた事で新しい自分になれる事を期待しての行為なのですが、心の痛みを代用するという意味では自傷行為に似ているので、精神的ストレスにあまり強くない方がやってしまいがちな行為です。
今日のストーリーの流れでピアスを開けた麻衣は、多少心が晴れたのでしょうか?